コラム

世界の最低賃金から見るニッポン、そして、中小企業の対応能力は?

 10月から適用開始の2024年度最低賃金は、2020年代中に現在の全国平均時給1,055円から1,500円台への引上げを予定されているため、今後5年間は”年平均7.3%以上の賃上げ”を実現しなければなりません。

 東京の平均賃金1,163円を例にとると、「5年後に1,654円」となる見込みで、時間当たり491円増加します。時間給が1,654円だと、年収換算では約318万円(前提:賞与なし、1日8時間労働)になります。

 そこで今号では、日本で最も高い最低賃金、東京都の1,163円が世界の最低賃金と比べてどのような位置にあるのか、「最低賃金や既存社員への給与の大幅引上げ」が待ったなしなのかどうかを確認してみましょう。

◆ 世界の最低賃金は日本の倍以上!
● トップはニュージーランド

 世界各国の2024年最低賃金は『ニュージーランドが時給16.10米ドル(2,415円)』で、隣国オーストラリアとほぼ並んでトップでした。
 この最低賃金でも『年収は463万7千円(上述の条件で試算)に上り、なんと、日本の男女平均年収460万円(国税庁2023年データ)とほぼ同額に。オーストラリアやニュージーランドに出かけてバイトして稼いでくるような話もよく耳にするわけは、こうした最低賃金が元となっているからなのですね。

● 米国の最低賃金は日本と同レベル!?

 豊かなアメリカ合衆国(以下、米国)は最低賃金は1,088円で、日本と変わりません。ただし、最低賃金は2009年以来変更されておらず、低いまま。でも、米国では州の力が強く、各州で最低賃金を定めており、これを下回ることができません。

 たとえば、ワシントン州は”時給2,442円(16.28ドル)”と全米トップで、年収換算では約469万円と、世界のトップを上回っています。また、ブラックフライデーやクリスマスの大セールの時期には時給20.00米ドル(3,000円)でバイトの募集記事がありました。これだと年収は576万円で、日本の男性の平均年収569万円を超えており、平均的日本人男性は最低賃金並み給料で生活していることになってしまう計算です。

◆ 新卒社員の年収と比較してみよう!
 2023年賃金構造基本統計調査によれば、大卒新入社員の年収は約285万円で、5年後の東京都最低賃金(1,654円)での年収(約318万円)を10%以上下回っています。

 5年後に最低賃金並みに大卒新入社員の給与が引上げられると、収は405万円に上昇します。一部の上場企業などでは、2024年春や来年の新卒社員の月給30万円付近まで来ている報道からは、年収400万円超えの時代到来が予感されます。
 また、年収400万円なら、法定福利費(社会保険料などの会社負担分)を加えると、1人当たり会社の負担コストは15~20%アップの460円以上になります。さらに、採用コストや新人の教育・研修コストも上乗せされ、1人当たりの毎月のコストは少なくとも40万円以上に。


◆ 5年後の給与の大幅アップは避けられない!?

 中小企業も、最低賃金1,500円台への引上げ見通しや、人手確保と諸物価高騰からは予想外の給与の大幅アップに迫られそうです。

 日本の男性平均年収569万円は、5年後には”809万円”になる計算です。法定福利費を上乗せすれば、ざっと930万円以上になります。
 ・社長の会社では人件費負担に耐えられますか?
 ・売上にこうしたコストを転嫁できますか?
 でも耐えられなければ、貴重な社内人材を抱えきれず、今のままの運営はできません。

◆ 給与の大幅アップを乗り越えて、発展するには?

 現状は、コロナ禍でのゼロゼロ融資の返済に行き詰まり、倒産に追い込まれる企業も少なくありません。加えて、そこまでではない中小企業でも賃上げできねば社員は集まらず、”人手不足倒産”リスクすらすぐそこに見えています。

 まだ資金的に経営体力が残されている今なら間に合います。
● 欧米諸国に劣る生産性の改善

 米国などの2/3程度しかない日本の労働者1人当たりの生産性を欧米諸国並みに引き上げられれば、生産性は50%も改善します。つまり、『5年後の賃金42%アップ実現も、余力を残して達成!』という状況に。

 具体的には、製造業なら「政府などの補助金を得ての生産性の高い機械設備への入替え」、販売業などでは「同様に補助金活用で営業のDX化(営業マン:iPadやスマホなどを活用して業務効率の改善。在庫:在庫をWeb上で更新して、営業マンには在庫確認のうえ受注できる環境を、得意先にも在庫開示でタイムリーな発注をしてもらう環境)」をはじめ、個別企業の特徴に応じて様々な対応が考えられます。

● 定型的な業務のアウトソーシング
 今まではアウトソーシング(業務の外出し)といっても、商品の運送や倉庫での保管程度が大半を占めていましたが、中には営業の一部(アポ取りまでなど)を外出しするケースまであります。
こうした定型的な毎月繰り返されるタイプの業務はアウトソーシングに向いているといえます。その典型例が、経理や総務の事務処理業務です。

● 業務効率の改善とコンプライアンスが両立できる経理と総務のアウトソーシング

 経理や総務の業務にも専門的知識が必要とされる時代となり、特に、経理では毎年改正される税務処理への対応などを含め、一般の経理担当者では年々ついていきにくくなっています。昨年10月には消費税のインボイス制度の導入、今年1月からは電子取引データの電子保存、6月と年末には定額減税対応、さらには今後は請求書や領収書などすべての原始証憑(元データ)などの電子保存まで予想され、プロでも初めての対応で戸惑っている状況です。

 DX化、ペーパレス化はもちろん、時代の要請のコンプライアンス(法令遵守)の体制づくりなどまで考えると、相当な知識やシステム環境を整えて対応しないと、真っ当に経理・総務などの業務をこなせないところにきています。
ポイントは、デジタル化、ペーパレス化、最新の知識を活かせる経理代行会社に、資金繰り関連なら・支払業務、・給与計算業務、・年末調整業務、・売掛金の消込業務(ケースにより、請求業務も)、月次決算関連なら記帳業務などを委託してしまうことです。

 もちろん、経理代行会社に対応能力があることの確認はもちろん、代行の相談を際に代行会社が皆さんの会社にどのような姿勢で取り組もうとするかはすぐにお分かりになります。記帳代行の相談で「毎月の仕訳数を聞かれて、”代行料はいくらです”といった回答」」が出てくるようなら、止められるようお勧めします。大切な点は、お客さまに寄り添って、現状を把握して、改善の余地などを探ったうえで、見積もりを提示し、なぜこの見積りになったかを納得できるよう説明があるかどうかです。

 一度委託すれば、簡単にやめてしまうことはできません。対応能力と企業姿勢をよく理解して、時代にマッチするアウトソーシングを活用して、一部業務に就いて賃上げを乗り切ることも選択肢です。

 最低賃金の引上げから見えてくる「5年後の自社の人件費負担増」への対策も今から検討すれば対処できる余地があります。